ニュースの概要
欧州の格安航空会社のあいだで、イーロン・マスク氏率いるスペースXの衛星通信サービス「スターリンク」を機内に取り入れる動きが続いている。今回は英国を拠点とするイージージェットが導入に動いたと伝えられた。これで、機内通信の導入に慎重な姿勢を保つライアンエアーは、競合に包囲される形になる。かつて機内Wi-Fiは、遅くて高いうえに一部の大手航空会社しか提供しない贅沢品だった。ところが低軌道衛星(=地球の低い軌道を飛ぶ小型の通信衛星)の登場で、その前提が崩れつつある。運賃の安さだけで選ばれてきた格安航空会社が、通信という新しい土俵で競い始めたことになる。
引用元: 格安航空会社のスターリンク導入が相次ぐ中、イージージェットも参入し、ライアンエアーに圧力をかける(Business Insider Japan)
分析・見解
低軌道衛星が機内Wi-Fiの常識を変えた理由
従来の機内Wi-Fiは、赤道上空の高い軌道にある静止衛星を使っていた。地上から約3万6,000キロも離れているため、通信の往復に時間がかかる。動画の再生や会議アプリは苦手で、料金も高くなりがちだった。
スターリンクは高度およそ550キロの低い軌道に数千機の衛星を並べる。距離が近いので遅延が小さく、自宅の光回線に近い使い心地になる。機体側の装置も小型化が進み、短距離機にも載せやすくなった。この変化が、格安航空会社にも導入の道を開いた。
格安航空会社が通信に投資する採算の読み方
格安航空会社の利益は、運賃そのものより付帯収入で決まる。座席指定、荷物、機内販売がその柱だ。ここに通信を加えれば、新しい稼ぎ口になると考えるのは自然である。
ただし機体への取り付けは、1機ごとに数日の運航停止と数千万円規模の費用がかかるとされる。折り返し時間が25分前後の短距離路線では、機材を止める時間そのものが痛手だ。だから導入は、収入を増やす目的だけでなく、顧客体験を守る守りの投資としても語られている。
もう一つ見逃せない点がある。通信が使えれば、機内で買い物や座席のアップグレードを勧めやすくなる。つまりWi-Fiは、それ自体が商品であると同時に、ほかの商品を売るための売り場にもなる。
ライアンエアーが沈黙を守る側にいる事情
ライアンエアーは過去に機内Wi-Fiを試しては撤回してきた。経営トップは、使う乗客が少なく、重量と燃料費が増えるだけだと繰り返し述べてきた。同社の強みは、1席あたりの費用を徹底して抑えることにある。
この方針は筋が通っている。一方で、競合が通信を標準にすれば、比較サイトの表示項目に「Wi-Fiあり」が並ぶ。使わない人にとっても、あるほうが安心という心理が働く。かつて機内食や預け荷物で起きたことが、通信でも繰り返されるかもしれない。
乗客の行動が変わると空港の役割も変わる
意外な副作用は、空港での過ごし方に出る。機内で仕事や動画視聴ができるなら、ラウンジに急いで入る必要が薄れる。搭乗直前までカフェで粘る人も減るだろう。空港の商業施設は、滞在時間の短縮という逆風を受けかねない。
反対に、遅延や乗り継ぎで足止めされても、通信環境が整っていれば不満は小さくなる。航空会社にとっては、遅延時の苦情を和らげる保険にもなる。
ビジネスへの影響
出張と旅行の手配で比べるべき項目が増える
法人で出張を手配する担当者は、運賃と荷物料金だけでなく、機内で作業できるかどうかも比較に入れる価値が出てきた。移動中の2時間を仕事に使えるなら、時給換算で見た実質コストは下がる。社員の移動時間が長い会社ほど効果は大きい。
実務では、出張規程に「機内通信の利用料は精算対象とするか」を一行加えておくとよい。無料か有料かは航空会社で異なるため、確認を怠ると経費精算で揉めやすい。
観光事業者が押さえたい情報発信の機会
日本の観光業者にとっては、訪日客が機内で行き先を調べる時代になるのが重要だ。到着前に宿や交通、体験予約を済ませる人が増えれば、機内で見られる多言語ページの出来が成約を左右する。
地図アプリで開きやすい軽いページ、荷物預かりの案内、空港からの移動手順を整理しておきたい。投資額は小さく、効果は早く出やすい。
通信を理由に航空会社を選ぶときの注意点
通信の導入は、全機材に一斉に行き渡るわけではない。路線や機体によって、使える便と使えない便が混在する期間が続く。予約前に、搭乗する機体で提供されているかを確認する習慣をつけたい。また、無料と発表されても、速度や利用時間に制限が付くことがある。重要な会議は、通信を前提にせず、事前に資料を端末へ保存しておくのが安全である。